全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

キャベツが結ぶ 人・世代・地域

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 特産キャベツは町おこしの要―。岩手県岩手郡岩手町では、若者からお年寄り、様々な産業がキャベツに関わり、町を元気にしようと取り組んでいる。甘く、柔らかく、みずみずしいのが特徴のブランドキャベツ「いわて春みどり」。7月下旬、淡緑色の大地が広がり、収穫に追われる農家の姿があちらこちらで見られる中、岩手町の関係者を訪ねた。


キャベツで町おこし



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 岩手町は町おこしの中心にキャベツのブランド化を据え、全町的な取り組みと合わせ、全国にも積極的に発信している。
 一度は産地消滅の憂き目に遭ったものの、今から30年前、全国一の産地を取り戻そうと町を挙げて復興させた。そこで誕生したのが「いわて春みどり」。先人の思い、現町民の希望がぎゅっと詰まった結晶だ。
 誕生した特産キャベツを自分の子どものように大切にする町民たち。
 キャベツの美味しい食し方の一つとしてご当地グルメ「いわてまち焼きうどん」を開発し、イベントなどに積極的に出向いては紹介している。
 また、子どもたちの食育にも活用。小学生は栽培を通して町をより深く知る機会とし、高校生も栽培・収穫を体験し、各地のイベントでその魅力を発信する。
 町の拠点施設「道の駅石神の丘」の農産物直売所では、当然キャベツは目玉商品で、毎日飛ぶように売れている。解説付きの売り場を用意し、観光客らに大きくPRしているからだ。キャベツに関わる人たちの交流拠点にもなっており、このたび第2回東北「道の駅」大賞を受賞し、町は大いに沸いたが、キャベツが大きく貢献した受賞といってもいい。
 このように、多くの町民に守り愛されているのが「いわて春みどり」だ。

 

生産農家、三浦正美さんの「いきいき農場」



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 三浦正美さん(60)が経営する「いきいき農場」では、総面積約80haのうち、キャベツはおよそ25haで栽培している。年間出荷量は10~13万ケース(1ケース10kg)。標高270mから800m台までの農地を所有し、標高差を活かしたリレー栽培を実施することで、4カ月半にわたって継続して安定的な出荷を実現している。こうした栽培法は、三浦さんだけでなく町内の多くの生産者が実践している。
 また、畜産が盛んな地域特性を活かし、産出される堆肥を使った「土づくり」も盛ん。丈夫な根を育て農薬使用を低減させる、低農薬栽培にも町全体で取り組んでいる。
 三浦さんは20数年前に低農薬栽培に着手。体の弱かった長女を気遣い、「農薬や化学肥料を使わず野菜に適した堆肥を使用したい」と考えたのがきっかけで、滋賀県にある微生物研究所に年1回計5年間通い、自分の畑に合った肥料を開発した。キャベツに関しては、ソバがらを入れて病気を抑える堆肥を実用化した。「土づくりをやっていくうちに、より持続性を追及するようなった。良い野菜は良い土から生まれる」と三浦さん。町で初めてとなるエコファーマーを取得したうちの1人でもある。今では自家製肥料で10数種類の作物を作り、特別栽培として出荷している。
 三浦さんのキャベツとレタスは大手ハンバーガーチェーン「モスバーガー」に食材として出荷しており、味、食感、安心・安全は折り紙つき。市場の評価は高い。
 農業の担い手不足は全国的に深刻で、岩手町も例外ではないが、それでも他地域と比較すればましな方だという。「全体的にみれば人手は足りないが、その中でも若者はある程度育っている。特産を守ることに関してあまり心配はしていません」と語る三浦さん。「私たちは適地適作を守り、お客様にブランドを認識してもらえるように頑張るだけ。結果としてまた食べたいね、また買いたいね、と言ってもらえれば最高ですね」と話す。

 

ご当地グルメ「いわてまち焼きうどん」



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 全国に誇れるキャベツをもっと多くの人に知ってほしい、食べてほしい―と考案したのが、ご当地グルメ「いわてまち焼きうどん」。そして、いわてまち焼きうどんを全国に発信し、町おこしにつなげようと結成したのが、ボランティア団体「いわてまち焼きうどん連合歓隊」だ。名前には、町民が「連合」し「歓待(おもてなし)」する意味を込めている。
 「かつての紆余曲折を紐解いて、再びキャベツを地元に広めようと考えたのが焼きうどんですが、微力でも力になりたい、全国に広めたいと思い結成しました」と話すのは、隊長を務める府金伸治さん。府金さんのキャベツに向けられる熱い想いと、明るいキャラクターは多くの町民を引き付け、大きな勢力へと拡大している。
 その中で特に目を引くのは、キャベツの発信に強烈なインパクトを与えている「キャベツマン」の存在だ。キャベツ色の覆面は見た目にも強烈だが、イベント時の府金隊長との掛け合いは観客を笑いの渦に包み込む。だが、ひとたびキャベツの話になれば、真面目に対応。キャベツマンの1人西田さんは「地元の特産をPRしたい人が自然発生的に集まった。岩手町はキャベツの町であること、楽しい町であることを多くの人に知ってもらえたら」と語る。現在は9人がキャベツマンとして活動中。県内はもとより、県外のイベントにも精力的に出掛けている。

 

地元高校生「私たちにも活躍させて!!」



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 今年から、地元の高校生もキャベツ作りとPR活動に取り組むようになり、キャベツを取り巻く環境はいよいよ賑やかになってきた。
 沼宮内高校の生徒会が7月18日、町内の畑にキャベツの苗を定植し、収穫したキャベツを2カ月後の10月3、4日のご当地グルメの祭典「B―1グランプリ」(青森県十和田市)に持ち込み、いわてまち焼きうどんを宣伝し、来場者に振る舞う。
 7月25、26日には予行演習も兼ねて、道の駅で開かれたイベントで来場者に焼きうどんを作り、販売を手伝った。メンバーの1人、山崎玲奈さん(1年)は「B―1グランプリでは全国にしっかりPRして、地域に貢献したい」と目を輝かせる。初めはうどんとキャベツ、肉などの具を、慣れない手つきで炒めていたが、府金隊長の指導でみるみる上達。本番に向けての準備は万事整った。

 

キャベツの可能性は無限大



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 特定の人が頑張っている地域おこしは、いずれ息切れしてしまう。岩手町のケースは、キャベツに関わる人、PRする人、サポートする人が見事に絡み合っていた。さらに地域間、世代間の交流にもつながっている。扇の要にあたるキャベツが自慢できるからこそ皆一つに、一生懸命になれる。
 町の拠点施設である道の駅の受賞は、こうした一体感から生まれたいわばご褒美。未来に向けてもっと大きな〝財産〟を得るための序章のように感じた。
 
(平成27.8.20 産直コペルvol.13より)
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