全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

女性100人の力で作る夢

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 女性100人の出資で起業した直売所がある。それが、「とれたて野菜市かみはやし(株)」だ。道の駅神林穂波の里の中にある直売所で、役員からスタッフ、また出荷者に至るまで主要な部分を担うのは全て女性だ。

 農産加工などを中心として、昔ながらの女性の知恵と能力を活かし、事業化に取り組む事例は多い。しかし、同社のように100名を超える人を束ね、株式会社化までを果たすケースは稀だ。
 「女性の起業」は、現在様々な分野から注目されてもいる。どのような経緯を経て、そしてどのような形で事業を進めているのか、同社副社長、川崎澄子さんに聞いた。


たかが女性の集まりと言われたことも



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 現在、「とれたて野菜市かみはやし」(※以下野菜市)は、道の駅の指定管理者として直売所を運営している。そこに隣接する形で、農産加工所「ゆりの会」がある。両者は経営こそ別だが、出発点は同じだ。「切っても切り離せない関係」だと川崎さんは話す。

 現在「野菜市」の出荷者は117名、うち86名が株主だ。売上は1年間で約2億円。直売所をスタートさせて約20年でこの規模まで成長させた。職員は3名、役員は4名。株主となっている生産者に当番で店先に立って貰うことで、店を回している。
 「たかが女の集まり」。
 そう揶揄されることもあったという。しかし、現在は確かな経営規模と存在感を持ち、営業を続けている。


はじまりは「女性に通帳を持たせたい」という思い



 はじまりは平成5年、JAかみはやし婦人部(現:女性部)が中心となって、「余った野菜を売って女性の現金収入に」とはじめた事業だったという。当時の婦人部長が、「小遣いしかない女性に通帳を持って貰いたい」という思いで提案したことだった。

 しかし、当初「直売所なんてあっても売れる訳がない」と反対意見も多かったそうだ。そうした中、当時の婦人部長が「売れ残りは全部私が買うから」という強い覚悟を示したことで、直売所が作られた。会員13名からのスタートだったという。

取れって野菜市かみはやし(株)副社長の川崎さん
取れって野菜市かみはやし(株)副社長の川崎さん

 川崎さんは当時、JAかみはやしの一職員として、この立ち上げに関わっていた。場所はJAのガソリンスタンド横のガレージ。営業も週2日、売るものがなくなったら店じまいという規模の小さなものだったという。

 それでも、営業を開始した直売所は「お母さんとの会話が楽しい」「面白い食べ方を教わった」など、女性ならではの接客が多くのお客さんの心を掴んでいった。川崎さんは、きめ細やかなその接客を「御用聞き販売」と呼ぶ。女性が持つ知恵や知識を直売所が引き出していったともいえる。
 「お母さん達はまるで魔法使いのようだった」と川崎さん。お母さん達から教わる野菜の保存方法、食べ方、作り方、毎回驚きと感動の連続だったという。

 好評を得たことにより、経営も少しずつ軌道にのり、場所を移動させプレハブの販売所ができ、さらに営業も週3日の期間を増やしながら利益をあげていった。
 そうして平成13年、道の駅神林が建設されることになった。そこで舞い込んできたのが、「道の駅での営業」という話だった。

 当時、「野菜市」は小さいながらも健全な団体に成長していた。しかし、道の駅での営業となると、これまでとは形態をがらりと変えていかなければならない。「女性だけで毎日店を開くことが出来るのか?」「品物は集まるのか?」「お客さんは来てくれるのか?」など、様々な不安がよぎった。

 しかし、「女性だからこそはじめられたのかもしれない」と川崎さんは当時を振り返る。損得を考える前に「やればできる」という前向きな思いがあった。また、「この野菜市を失くしたくない」という思いも同時に感じていたという。
 道の駅の新設と共に店舗は道の駅内へ移転。会員も新たに公募し、規約と運営規定を定め、新体制での営業が始まった。

 

女性をまとめる力とは



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 その後、平成17年度には売上高1億円を突破、順調に売り上げを伸ばしていった。とはいえ「道の駅開駅当時の職員は大変だったと思う」と川崎さん。
 ここまでの営業を支えたのは、女性達の惜しみないボランティア精神にあったという。営業日が増えれば当然、当番の負担も増える。しかし、それぞれが店を支えようとする意識を持っていてくれたことが、「野菜市」の基礎となっていた。それは同社が100人の株主による会社であることからもうかがえる。

 「野菜市」が株式会社化したのは、平成22年12月。平成20年に市町村合併を経て指定管理者として承認されたことが契機となった。最終的に、発起人設立という形で、まず10名が発起人となり「株式会社とれたて野菜市」を設立した。資本金は300万。設立後、会員に株の譲渡し、現在の形態が出来上がった。もちろん、株主、役員、従業員は全て女性だ。

 しかし、法人化で避けたかったのは、これまで関わってくれた人たちが「一出荷者」となってしまう、ということだった。これまでは、任意団体として、それぞれが主体性を持って店に参加していた。しかし、例えば、10名の法人にして100名の出荷者を束ねる、という形にすると、これまで持っていた出荷者の主体性が無くなってしまう恐れもあった。
 だからこそ、100名の女性による株式会社という形態を選んだ。
 「自分たちの会社だという意識を持って欲しい」。

郷土色である笹団子は人気の品だ
郷土色である笹団子は人気の品だ

 その思いを共有したことで、100名の女性達がまとまったのだ。
 もちろん、高齢のため、当番や義務化している定例会への出席が難しいという人もいる。そのため「生産者の会」を設け、出荷のみの人にも門戸を開いている。
 平成25年には川崎さんがJAかみはやしを退職、常勤職員として働き始めることになり、企業としての体制も更に整ってきている。


農産加工所「ゆりの会」の存在



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 「野菜市」の経営を支えるもののひとつに、農産加工所「ゆりの会」の存在がある。
 川崎さんが「魔法」と称する食の技術や知恵。その腕を活かそうと、道の駅開設の翌年に設立された。
 「笹団子」「ちまき」「シソ巻」「かきもち」「とうふよせ」……旧神林村の郷土料理だ。その多くが各家庭で作られていた農家の手料理だが、今ではお年寄りでさえ、家庭で作らなくなってしまっていることが多い。

 しかし、そうした技術を持つ人が、「野菜市」にはたくさんいた。
「昔ながらの食の知恵を守っていこう。伝えていこう。」
 そうして、特に技術を持つ15、6人が中心となって「ゆりの会」が立ち上がったという。企業組合として設立した「ゆりの会」は、当初から「野菜市」とは経営こそ別だが、商品の全てを同店で販売している。
 加工品のメインのひとつである笹団子は、シーズンには電話注文が次々と舞い込み、嬉しい悲鳴を上げることも少なくないそうだ。

 また、米からの転作で大豆の生産量も多い村上市では、大豆の有効活用を模索していた。そこで「ゆりの会」では、大豆を使ったインドネシア発の発酵食品である「テンペ」の製造を開始。その珍しさと機能性から注目を浴び、テンペ粉入りのかぼちゃまんじゅうや黒糖まんじゅうも売れ筋となっている。


徐々に広がる女性による事業の輪



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 営業を続けていくうちに、個人でも加工をしてみたい、独立したい、という人が現れた。今では「個人で1000万程売り上げる人もいる」というのだから、本格的なものだ。乾燥野菜・果物といった第一次加工だけの人もいるそうで、小さいものも含めれば、6名程の人が加工事業に取り組んでいるという。独立していく人はもともと技術のある人が多いというが、直売所が知恵の情報交換場所となっていることも、独立を促すひとつの要素となっているのだろう。

 しかし、そうした事業を支えるためには、店が売れる場所でなければならない。売れるからこそ起業ができ、事業を続けていくことが出来る。
 そして何より、女性達が生き生きと働き続けることで、いつまでも健康で元気に暮らして欲しい。
 「そのための仕掛けづくりを、店は怠らないようにしなければと思う」と川崎さん。研修にも力を入れ、毎年他地域の取り組みを学びに出掛けつつ、親睦を深めている。

 女性ひとりが持つパワーは小さなものかもしれない。家庭との両立もある。しかし、支え合い、知識と知恵を共有し、ものごとを進めていく能力に、女性は長けているのだろう。例えば、直売所に出荷に来ると、すぐに帰る人はあまりないそうだ。昔でいう「井戸端会議」のようなものだろうか。直売所を介して伝えられていく郷土の食や暮らしの知恵は多い。
 「男性がひとりでもいると崩れてしまうと思う」と川崎さんは笑う。

 これまでも、女性達は先人から多くの知恵と技術を受け継ぎながら、地域の中で働いてきた。今では薄らいでしまったかもしれない、その仕組みと仕掛けをもう一度、地域の中に作り出す。それが「とれたて野菜市かみはやし」の役割と使命のひとつでもあるのだろう。
 「夢はこの店をたくさんの技術と知恵を持つ、魔法使いでいっぱいにすること」。
 そう川崎さんは明るく語ってくれた。

(平成26.8.11 産直コペルvol.7より)
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