直売所がこの先生きる道を共に探る

信州直売所学校【2】 待ったなし!鳥獣害対策

 昨年に引き続き、県内外から多くの参加者を集め7月に開校した信州直売所学校。8月23日・24日に行った第2講義は、本誌18号でも特集を組んだ「鳥獣害対策」をテーマに取り上げた。
 講師には、信州大学農学部の泉山茂之教授(23日)と、竹田謙一准教授(24日)、また株式会社地域環境計画より、野生生物管理事業部の小野晋さんと唐松あかりさん(両日)を迎え、約60名(両会場含め)の受講生らとともに鳥獣害の現状や対策について学んだ。


爆音はツキノワグマに効果あり?



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 信州大学農学部で動物生態学を研究する泉山茂之さんは、ツキノワグマの生態やその被害対策について解説した。
 ツキノワグマは、現在長野県の山全域に生息している。泉山さんは、「自身の農地に出没する1体を駆除しただけではその農業被害は止まらない」と説明。なぜなら、柵などによって自分の畑を防除したうえで駆除しないことには、結局すぐに別の個体がその畑に訪れるためだ。「重要なことは、クマに対する正しい知識を持ち、いろんなやり方を組み合わせた総合的防除を実践すること」と、訴えた。
 会場からは、「サルよけに実施されているような爆音を使った対策はクマにも有効?」との質問が投げかけられたが、これは「まったく効き目なし」とのこと。最初のうちにある程度効果がみられても、それは動物が警戒して様子をみているにすぎず、慣れてしまったらもう意味がない。「人間が姿を見せて追い払ったり、罰や刺激を与え、その場所が動物たちにとって怖い場所、居心地の悪い場所と教えることが必要」と回答した。



隣の畑も自分の畑



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 同じく信州大学農学部で、本誌18号の鳥獣害特集にも登場いただいた、竹田謙一さんは、長野県の鳥獣被害全体について解説。長野県の農林被害金額・被害面積はともに全国トップ3に入るほど大きく、他県に類を見ないほどの鳥獣発生地であると話した。
 また、自分の畑に出た野生鳥獣を追い払っても、他人の畑のそれを追い払わないという行動の問題点について指摘。どこに出たかに関わらず、動物を見かけたら常に追い払いをすることで、人間が怖い存在と動物に思わせる必要があるのだと説いた。
 この他、全国の対策事例の成功事例・失敗事例や、対策方法についても紹介した。例えば、柵を設置する場合。対象となる動物の目線のところに目隠しとなる覆いをすると、動物からは中の様子が見えないため、わざわざ柵の中へ頑張って侵入しようとしなくなり、ただ柵を作るよりも効果があると動画を見せながら解説。会場からは納得のため息がもれた。



電柵ダミーは逆効果



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 株式会社地域環境計画は、国や都道府県、各自治体から調査依頼を受け、各地域の生態調査を行ったり、その結果を活かし、対策やアドバイス等を行っている会社だ。クマ・シカ・イノシシを中心に、その特徴や対策方法を紹介した。
 講師の小野さんと唐松さんは、鳥獣対策の基本は、対象動物が出没しにくい環境を作り、エサ(場)をなくすことが重要であると説明。動物が出没しやすい環境とは、野生動物の隠れ家、通り道、エサ場になるような環境であり、それらを防ぐため、藪の刈り払いや、放棄作物・果樹を管理し、動物にとって居心地の悪い環境を作ることがとても重要であると述べた。特に、放棄作物・果樹の管理については、被害が起きる前から実施し、動物たちに人里の味を覚えさせないことが大切、とのこと。
 また同社では、鳥獣害対策グッズも取り扱っており、講義の後半にはいくつかのグッズを実際に見せながら、その正しい活用方法等についても紹介した。例えば電柵だが、これは常に電気を通しておかないと意味がないという。最初に動物が柵を警戒し、鼻先でそれを確かめた際に電気が通っていなかったら、動物はその柵を「無害」と学習してしまい、次からは確認しなくなるためだ。そうなると、(鼻先以外の)動物の体に柵が当たっても皮膚は分厚い毛皮で覆われているため、電柵の効き目はない。電柵に電気を通さずに「電柵ダミー」のような使い方をしている人もいるが、これでは逆効果になってしまうという。 
 「正しい知識を得て、きちんとした対策をしないと、せっかく策を講じても無駄になってしまうこともある」と述べたうえで、適切な対策方法を受講生らに丁寧に教えた。



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