直売所がこの先生きる道を共に探る

信州直売所学校2015 第5回

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環境保全型農業、その制度と取り組む意義



 長野県内の直売所の運営者・スタッフ・生産者を対象とした全10回講座「信州直売所学校」の第5講座を10月14日、塩尻市にある県総合教育センターで開催しました。
 今回は「環境保全型農業、その制度と取り組む意義」と題し、エコファーマーや特別栽培、また有機栽培に関する制度の説明と、消費者の動向やこだわり農産物の商品価値についての具体例を紹介していただきました。


環境保全型農業
制度のポイントと申請方法



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 まずは、農政部農業技術課環境農業係の水谷浩史さんより「環境保全型農業の制度のポイントと申請方法」と題して講義がありました。
 そもそも環境保全型農業とは何なのか? 言い換えればそれは、「農業が環境のためにしなければならないことは何か?」という問題提起に繋がります。
 現在行われている慣行農業の問題点として、化学肥料に依存しすぎることで生じる水質汚染や、また化学合成農薬の使用による害虫以外の生物の殺傷などの弊害が挙げられ、将来に渡り農業が存続できるかどうかが危惧されています。
 現代において環境保全型農業は時代の要請であり、いかに化学肥料と化学合成農薬を減らしていくのか、その取り組みが環境保全の要になるとの訴えでした。
 そのための具体的なステップとして、まずは「エコファーマー認定」、そして「信州の環境にやさしい農産物認証」、さらには「特別栽培農産物」「有機JAS」などの制度が用意されています。
 その中から今回は、エコファーマー認定制度を中心に、申込方法や申請書類の書き方に関する説明もあり、参加者から「具体的な手続きのための資料があってわかりやすかった」との感想が聞かれました。
 印象的だったのは、エコファーマーのメリットに関するお話で、「高く売れることだけがメリットではない」という視点です。環境保全型農業を実践することで農薬など資材コストを低減できる点や、農産物に付加価値が加わる点など、考えられるメリットはいくつかありますが、何より生産者が自分のこだわりを消費者へ伝えることで喜びを得られる重要性を力説されていました。
 農林水産省関東農政局長野支局の田島喜志子さんより、「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」についてのお話もありました。


観光の中での農産物の価値



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 午後に入って、素材広場の横田純子さんより、観光の視点から環境にやさしい農産物のニーズについて語っていただきました。
 人は「安全」ではなく「安心」でものを買う。自分の生活を振り返ると、いつも行くスーパーでいつもと同じものを買っているはず。つまり、お店に対する安心感が決め手になっている。消費者が求めているのは「いつもの店・いつもの味・いつもの値段」であり、この法則が崩れるのが観光地。「ここでしか買えない」というマジックでお財布が緩む、という独自の考えを解説。
 会場に元気を振りまいてくれるようなその話しぶりに、自然と受講生の関心が高まっていくのを感じました。
 観光においては「市場で売ってないものにこそ価値がある」という着眼点から、伝統野菜や希少価値が高く市場に出回らないような素材を、今までにない形でプロデュースすることで地域を盛り上げる。そんな横田さんの活動から学ぶことは多く、地産地消の火付け役となるために行政と上手に連携するコツや、また直売所運営のために役に立ちそうなヒントが満載の講義となりました。
「たのまれごとは試されごと。頼られる人となれ」
 横田さんの信条に深くうなずく参加者も見られました。


消費者の動向と商品価値について



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 続いて生活菜園「テスク」の塩澤忠文さんより、環境保全型農産物を地元の直売所や都市部の飲食店・スーパーなどに卸してきた経験から、消費者の動向について解説していただきました。
 その中で、都市部での評価・取り扱い量は増加傾向にあるものの、地元の直売所ではまだまだ低調。環境保全型農産物だから売れる訳ではない。最終消費者の関心は高まっているが、大多数は価格・品質・味などを優先する、といった現状が明らかに。
 環境保全型農産物の価値や生産者の取り組みが十分に消費者に伝わっているとはいえないこの現状を打破していくために、直売所という売り場ならではの特徴を最大限に活用することで、まずは環境保全型農産物を消費者に手にとってもらうための工夫が必要だとの主張でした。
 工夫の具体例としては…農産物に貼り付けるラベルを自作し、栽培方法を物語にして添えている農家さん。英語、韓国語、中国語表記までしている農家さん。品種の特徴だけでなく食べ方もわかるように表示したり、手書きのイラストが受けて飲食店の壁に飾ってもらえるようになった農家さん。
 さらには、色で特徴を出すことにより「あの黄色いラベルの生産者!」で有名になり、直売所に「黄色いラベルの物を下さい」と注文が来るようになった農家さんの例など、多くのアイデアを紹介して下さいました。
 誰々の何々を買える場所。農家のファン作りができる場所。そんな直売所ならではの特徴を活かし、消費者に響くラベルの工夫で道を開こう、という今すぐにでも実践できる提案をしていただきました。


給食市場の現状と展望



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 最後に、学校給食事業に携わる株式会社ミールケアの関 幸博さんより講義していただきました。
「御社のミッションは何ですか?」
「社長は…未来を見てきたかのように語れますか?」
 との問いかけに、信念を持って応えられる人はどれだけいるでしょうか。
 ミールケアでは、「日本の美しい食文化を給食を通じて未来へと伝える」ことをミッションとし、栄養面の充実よりも、子どもたちの感受性や味覚を育てることを重視した給食サービスを行っているそうです。
 具体的には、季節の移ろいを感じ日本の千恵を見直すための、二十四節気にもとづいた特別食の提供。出汁や素材の味を活かせる和風の調理。野菜嫌いな子供たちも好きになる「子供向け野菜」の開発。
 さらには、100年かけて信州伝統野菜の付加価値を高める取り組みの中で、京野菜に負けないような歴史的価値のあるブランド力の獲得を目指し、伝統野菜農家を買い支え、全国へと信州野菜を発信していく事業も行っているとのことです。
 質疑応答の時間に話題に上がった店舗づくりにおけるアドバイスとして、「お店の中にムダな施設を作ることも必要なんだ」という関さんの主張に、ハッとさせられた受講者も多かったのではないでしょうか。
 「地域の人がいなければ成り立たない」という考えのもと、地域情報の発信や求人カードの掲示、食べる飲む歌うステージの提供や、カルチャースクールなど趣味の発表の場を設けてみてはという提案です。自分の都合ばかりを優先するのではなく「人様」を中心に考える関さんならではのアドバイスでした。
 「環境保全型農業、その制度と取り組む意義」というテーマに収まりきらない深い学びの場となった今回の直売所学校。
 「このお話を私達だけで聞くのはもったいない!」という受講者の率直な感想が、この学校の貴重さを物語っているように感じました。


次回の直売所学校



 次回は11月4日(水)、テーマは「農作業の安全性向上に向けた知識と実践」です。直売所運営者やスタッフの方はもちろん、生産者の方にとって特に得るところの多い講義となります。ぜひお誘い合わせの上、多くの方々のご参加お待ちしております!


カリキュラム・参加申込書はこちら



 現在、信州直売所学校では、各回の受講生を募集しています。興味のある回のみの参加も受け付けております。お誘い合わせの上、ぜひ、ご参加ください。
 参加申込は↓の申込用紙をダウンロードいただき、必要事項を記入の上、産直新聞社(FAX:0265-82-1261)までお送り頂くか、お電話(TEL:0265-82-1260)でお申し込みください。

信州直売所学校カリキュラム (pdfファイル、4653103バイト)
信州直売所学校申込書 (pdfファイル、677835バイト)
アグニコ

安心安全な農作物の生産・販売・購入を支援するwebサイトをオープンしました! 手間のかかる防除履歴のチェック作業を手助けする「農薬適用判定navi」と、使用可能な農薬をカンタンに検索できる「農薬info」をテスト運用中です。ただいまユーザー募集中! 登録のお申込み・お問合せは産直新聞社まで。

GAPとは

GAPとは「Good Agricultural Practice」の略で〝良い農業の実施〟の意味。「人間の健康」「自然の環境」を守り、「持続的農業」生産を行い、消費者に信頼される健全な農業を実践することです。科学的知見に基づきながら、食品安全だけでなく、環境保全や労働安全など幅広い分野を対象とし、法令やリスクを認識しつつ、持続的な農業生産を目指します。

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