直売所がこの先生きる道を共に探る

信州直売所学校【終】 遊休農地対策

2月7日8日に行われた第10講義をもって、2016年度の直売所学校が終了した。
最終回の講義テーマは「遊休農地対策―集落営農組織と企業の農業進出」。
講師には、株式会社田切農産代表の紫芝勉さんと、株式会社かまくら屋代表の田中浩二さんを迎え、直売所学校締めくくりとなる講義を行った。

地域全体で農地の活用を考える



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長野県飯島町にある(株)田切農産は、地域の農地の担い手法人として平成17年に設立された会社だ。地域の農地の管理活用、受託作業など農業経営を担うとともに、直売所の運営や、地区の組合員の水田農業政策の取りとめの役割を担ってきた。
 「地域を守るためにどうするかと考えたとき、農家が個人で農地の活用法を決めるのではなく、地域で活用を考えられるようにしました」と紫芝さんは説明する。飯島町では、農地の利用調整は同社と(一社)田切の里営農組合との連携で進められており、耕作放棄地は全農地のわずか0.5%程度に抑えられている。
 同社の活動でもう1点特徴的なのが、ただ農地を預かるだけでなく、畦畔・水管理や、栽培作業の地域住民への委託を通して、地域に利益を還元するための取り組みを進めている点。
 これについて「地域に根ざした会社である以上、一部だけが幸せになるのではいけない。それでは地域は作れない」と紫芝さん。多くの人を雇えばその分手間も人件費も大きくなるが、それよりも「雇用の発生」が大切であると考え、「なるべく多くの人と関わって、会社の活動から何かを得てもらいたいと思っている」と穏やかに話した。
 当初23 haの農地からスタートした同社、現在ではその農地集積は100haを超え、地域農業の中心的役割を担っている。
 また、自社での栽培だけでなく、「次世代の農業担い手育成プログラム」を実施。長野県里親制度に登録し、研修生の受け入れを行い、研修・収納希望者のための独自プログラムを用意して新規就農者を応援しながら、次世代を育てている。



アイディアと汗で地域の農地を守る



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(株)かまくら屋の田中さんは、自動車販売会社を経営しながら、全く畑違いの農業生産法人(現在は株式会社)を立ち上げたという一風変わった経歴を持つ。
 きっかけは、2008年のリーマンショック。自動車販売の売り上げは大幅ダウン、「競争せずに打ち勝つには?」と考えるようになったという。そして、小さくても、自分で作ったものを自分で売れるメーカーになろう、と転身を決意。友人から「信州そばの原材料は輸入したそば粉がほとんど」という話を聞いたのを受け、「国内で競争せずに済む!」と、農業生産法人を設立して、そばの栽培を始めた。

 ところが、大変だったのはそこから。「耕作放棄地が増えているというのはよく聞いていたので、農地を借りると言えば喜ばれるかと思っていました。けれど実際は、農業の経験もないような会社だと、相手にしてもらえませんでした」
 それでも会社を立ち上げた以上はやめられないと役所へ通いつめ、なんとか耕作放棄されていた農地を取得。「ジャングルのような荒れ果てた土地でしたがそこしかなかったので苦労して再生しました」と田中さん。すると、そんな田中さんらの姿が、地元農業委員の方の目にとまり、新たな農地取得を手伝ってもらえるようになった。
 「地域からの信頼の厚いその方と一緒にお願いに回ると、2つ返事で土地を貸していただけました」
 その後、実績を重ねていくうちに地域の信頼も得て、農地利用を頼まれるようにもなった。そんな中で田中さんらがこだわってきたのが「断らない姿勢」だ。地域農地の受け皿になるべく、良い農地も悪い農地も断ることなく、栽培面積を拡大してきた。今では、地主さんの数は約400人、圃場数800枚、農地は100haを超えるという。

 条件の良い圃場ばかりではない。収量が少なく、コストのかかる悪条件の場所も多い。職員から「もう(そういう農地は)借りなくてもいいのでは」と言われ、悩んだこともあったという。会社の経営だけを考えれば借りない方がいい。だが、「最初の頃、必死で農地を借りたこと、その時に地主のおじいちゃんおばあちゃんが『借りてくれてありがとう』ととても喜んでくれたことがどうしても忘れられませんでした。条件の悪い圃場は、私たちが返したら借り手はつかず、耕作放棄地になるばかり」。そう考え、「アイディアと汗で地域の農地を守る」ことを決意した。

 具体的には、 (1)六次産業化で付加価値をつけること、 (2)ソーシャルビジネスで地域力を活用すること。 (1)についてはオリジナル商品を多く開発しており、4月には満を持して直営店を開設する。また(2)については、住民と共同で獣害防止策を建設したり、地域の若者や障害者雇用に取り組むなど、自社と地域の課題をビジネスで共同解決している。



半年間の感謝をこめて



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 紫芝さんと田中さん、両者に共通しているのは、「地域の農地を守る」という強い意志だ。この、「地域を良くしたい」という思いは、このお二人だけではなく、これまで直売所学校の講師に迎えてきた皆に言えることかもしれない。
 7月からの約半年間を通して、講師を勤めてくださった講師の皆様と、一緒に直売所学校を作りあげてくださった参加者の皆さんに、深く感謝申し上げます。ありがとうございました!
 また直売所学校の開催が決まりましたら、「産直コペル」を通してご案内いたします。よろしくお願いします!



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GAPとは「Good Agricultural Practice」の略で〝良い農業の実施〟の意味。「人間の健康」「自然の環境」を守り、「持続的農業」生産を行い、消費者に信頼される健全な農業を実践することです。科学的知見に基づきながら、食品安全だけでなく、環境保全や労働安全など幅広い分野を対象とし、法令やリスクを認識しつつ、持続的な農業生産を目指します。

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