直売所がこの先生きる道を共に探る

特集「環境にやさしい農業」実践直売所育成事業第3弾 これまでの取組から見えてきたこと

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 既報の通り、当社は長野県農政部からの委託事業として、4月から「環境にやさしい農業」実践直売所育成事業に取り組んできました。4、5月は、常設有人の長野県内220箇所(うち60箇所はJA系列)の直売所を対象としたヒアリング調査を実施し、6月に入ってからは長野県内10地域プラス、本事業のモデル直売所4店舗への、合計14回の直売所指導者育成研修会を行ないました。
 本号では、この事業の現状をまとめてご報告すると同時に、取組みの中で浮かび上がった、環境にやさしい農業実践へ向けた課題について、レポートしていきたいと思います。


ヒアリング調査から見えてきたこと



 4月から5月の2カ月間にわたり、長野県内の常設有人の220箇所(うち60箇所はJA系列)の直売所を対象としたヒアリング調査を行ないました。質問項目の詳細結果については、産直新聞GAP号外にて既にお伝えの通りです。本誌では、ヒアリングから浮かび上がった事象を、大きく3つにわけて考えます。


(1)歴史の古い直売所の経営危機



 まずは図1のグラフをご覧ください。これは、直売所の活動開始年別に見る、売上げ額対前年比のグラフです。これを見ると、活動開始年が古くなればなるほど、昨年度に比べ、売上げが減少している店舗の割合が増え、直売所の経営状態が厳しくなっているという傾向が見えてきます。直売所の新設ラッシュが、昔からある直売所の経営に影響を与え、その運営を苦しめていると言えるでしょう。古くから、その地域の地産地消の基盤としての役割を担ってきた直売所の衰退が浮き彫りになりました。


(2)認証制度の活用について



 エコファーマーや、信州「環境にやさしい農産物」等の、認証制度についてたずねると、多くの直売所では次に挙げたような意見が多く聞かれました。

「認証は取ったが売れ行きに変化はない」
「シールを貼っても何も変わらないから、貼るのはやめた」
「以前とってはいたが、メリットを感じないから更新はしなかった」

 これらの制度はどのようなものなのか、消費者に対するPRがほとんどされていないため、せっかく認証を取得しても、売れ行きは変わらず、取ったことの意義が感じられないという意見がほとんどでした。
 ただ例外として、安曇野市のほりがね物産センターでは、エコファーマー専用のコーナーが店舗内に設けられており、そのコーナーに並べられた商品は、店の売れ筋商品となっているそうです。周知や売り方次第で、売れ行きを伸ばす可能性は、おおいにあります。


(3)GAPに対するマイナスイメージの先行



 ヒアリングの中で、GAPについて質問すると、知らない、あるいは知ってはいるが特に取り組んではいないと回答した直売所が大多数でした。ところが、個々の取組みについて、詳しく話を聞いてみると、それぞれの直売所で、出荷者に対するルールを設けていたり、自分たちで守るべき事柄を「心得」として店舗に掲示していたりする直売所は多くありました。そのほかにも、定期的に指導者を招いて研修会を開催している、といった取組みも多くの直売所で聞かれました。

 より良い直売所運営のために、自分たちで守るべき基準を定め、実践する、あるいは、栽培技術向上の為に勉強会を開く、これらの一連の取組みは、GAPの実践そのものと言えるでしょう。
 日本では、「GAP」と聞くと、商業目的の認証制度、または、その認証制度取得のための書類への記録行為、と捉えられることが多く、「GAP」=「面倒で手間がかかるもの」と、イメージしている生産者の方も多くいます。ですが、本来のGAPとは、生産者が、GAP規範に従って、自らの農業経営に、改善を積み重ねていく行為そのものであり、認証制度を取得するために、チェックシートへ記録する行為は、GAPのほんの一部分でしかありません。本来のGAPの理念が理解されないままに、商業GAP等の認証制度が広く出回ったことにより、GAPへのマイナスイメージばかりが先行してしまっていますが、GAPとは何なのかを、今日的に整理しなおす時が来ているのではないでしょうか。


GAPの実践を基礎とした直売所指導者研修会、各地で開催



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 6月を通し、合計14回に渡って、GAPの実践を基礎とした、直売所の魅力アップに向けた直売所指導者研修会が行なわれました。長野県内10地域プラスモデル直売所4店舗で開催されたこの研修会には、各地域の直売所関係者らが出席しました。

 研修会は前半と後半の2部構成となっており、前半は本誌編集長の毛賀澤が、GAPの実践を基礎とした直売所の魅力作りや、ブランド化について講演し、後半は長野県農政部から、GAPの基本的概念や認証制度、長野県農業の現状等についての説明がありました。そしてその後、残りの時間で参加者との意見交換会の時間を設けました。

 会の最後の意見交換の場で、GAPや認証制度について、興味がわいたかどうかを尋ねると、どの地域においても、何人かの直売所運営者が手を挙げて、挑戦してみたいという意思を示しました。
 何を、どんなふうに進めていきたいのかは、それぞれ環境も違うため、内容にバラつきはありますが、これから何かしらの行動を起こしてみたいという前向きな姿勢がありました。

 また、木曽地域については、直売所単位ではなく、木曽地域共通の基準を定め、地域全体でまとまってGAPを実践していくことが、研修会の中で決まりました。
 「やってみたいが、周りからの理解を得られるかが不安」という声もいくつかの直売所から挙がりましたが、まずは意欲のある人が中心となって取組みを始め、それを少しずつでも周りに広げていこうという意識で、とにかく実践してみるということが大切なのではないでしょうか。いきなり全員で取り組むことが難しくとも、少しずつ周りを巻き込んで、最終的に全体でベクトルを合わせることを目標に、実践に移してみることが大切でしょう。


直売所GAPについての考察



 直売所でのGAPの実践について、「もともと趣味で作っている程度だから」、「農業は本業ではないから」と、消極的な意見も聞かれました。しかし、生産者の栽培技術や意識にバラつきがあるからこそ、この取組みを通し、栽培・意識両面のレベルを向上させることに大きな意義があるのではないでしょうか。ルールや決まりを押し付けるのではなく、良い農業とは何か、自分たちに何ができるのかを生産者自身が考え、自発的な改善行動を生まなければ意味がありません。
 これまでのGAPに対するイメージを改め、GAPの本質である、自主的な改善の積み重ねを行っていくことが、今後の直売所の成長のカギを握ると言えるでしょう。

 さらにもう一歩踏み込んで、古くから地産地消の基盤としての役割を担ってきた、山奥にある直売所について考察を進めます。これらの店は、出荷者が自家用に作っている農産物で、食べきれないものを直売所に出す、という経緯から成り立ってきた所が多いため、農薬などを、何も使わず生産している生産者も少なくありません。そのため、彼らの農業生産方法を現代の基準に照らし合わせてみると、エコファーマーや、環境にやさしい農産物、等の認証基準を、クリアしている可能性も高いです。さらに、そのような中山間地での就農を希望し新規就農する、有機農家の若者も増えてきています。これらを踏まえ、環境にやさしい農業を推進していくことは、その地域を活性化させ、集落を守る重要な役割を果たすと考えられます。


今後の方針



(1)販促イベントへの参加



 エコファーマーや、信州環境にやさしい農産物の認証を取得した商品の販促活動を行ないます。各直売所においては、それらの農産物を他と区別し、アピールするため、専用の特別棚等を設けていただき、その販促効果についても調査を行なう予定です。
 また、千曲川流域ブランドフェアや、東京銀座のシェアスペース等を活用し、消費者へ広くPRを行ないます。
 信州の直売所農業は「水と緑と笑顔を守る」 素晴らしいものなのだということを、長野県全体でアピールしていきたいと思います。


(2)信州直売所学校で人材育成事業



 より良い農業、より良い直売所運営をしていくためには、正しい知識や研究が必要となります。それらを勉強するために、「信州直売所学校―環境保全型農業編―」と銘打って、直売所関係者の学びの場を作ります。
 栽培履歴の読み方や、農業生産におけるリスク管理など、より良い直売所運営のためのノウハウを学び、そこで学んだ人間が中心となって、直売所GAPを進めることを目指します。長野県内各地域の直売所が集まれば自然と、情報交流の場にもなるのではと考えています。


【ミニレポート】GH評価制度を勉強しました



 本誌スタッフは、日本生産者GAP協会理事長の田上隆一氏を講師に招いた、GH評価制度の研修を受けました。(長野県農政部農政課主催)
 GH評価制度とは、日本生産者GAP協会が提唱する農場の評価制度です。具体的には、評価員が生産者の圃場や作業場を見てまわり、その農業経営の在り方について、労働安全、農薬管理、土壌管理等の様々な側面から点数をつけて評価を行なう制度です。

 今回は、生産者直売所アルプス市場(松本市)に出荷している2人の生産者の方にご協力いただき、実際に圃場や作業場を見せて頂きました。研修は2日間にわたって行なわれ、1日目は、圃場・作業場の見学と生産者へのヒアリングを行い、2日目は、前日に行なわれた見学と聞き取り事項をもとに、各評価項目につけるべき妥当な点数を話し合いました。その後、講師である田上氏の解説を聞き、農業生産におけるリスク管理の考え方を勉強しました。

 点数をつけて農業経営について評価する、と言うと、「点数をつけられるなんて嫌だ」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、重要なのは総合点数の高低ではなく、各評価項目において、リスクが高く直ちに改善が求められる、と評価された事象を改善することです。自分以外の人に見られることは、見過ごしてしまっていた部分への気づきを与えてくれるきっかけになります。外からの情報が入ってきにくい分野だからこそ、農業経営の改善のためには第三者の視点が重要な役割を持つのだと感じました。


直売所にお願いしたいこと



 本事業は、2階建ての構造となっており、まず1階部分に直売所GAPの実践があります。丁寧で、自主的な工夫にあふれる農業生産・施設管理の実施が本事業の土台となります。そしてこれを基礎として、「エコファーマー」や「環境にやさしい農産物」等の認証制度を取得し、それらの農産物のブランド化を図る取組みが、2階部分に成り立ちます。
 直売所の皆さんで、もしもこの取組みに興味をもたれた方がいましたら、ぜひ名乗り出てください。取材に伺ってPR活動のお手伝いをさせていただいたり、できる限りのご協力をしたいと思っています。長野県の直売所事業を、県全体で盛り上げていきましょう。

(平成26.8.11 産直コペルvol.7より)
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GAPとは

GAPとは「Good Agricultural Practice」の略で〝良い農業の実施〟の意味。「人間の健康」「自然の環境」を守り、「持続的農業」生産を行い、消費者に信頼される健全な農業を実践することです。科学的知見に基づきながら、食品安全だけでなく、環境保全や労働安全など幅広い分野を対象とし、法令やリスクを認識しつつ、持続的な農業生産を目指します。

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