直売所がこの先生きる道を共に探る

信州直売所学校【3】 グリーンツーリズム・地産旅消の農商工連携

9月13日・14日に行われた第4講義のテーマは「グリーンツーリズム」。講師は、長崎県大村市のおおむら夢ファームシュシュの代表、山口成美さんと、福島県会津若松市のNPO法人素材広場の代表、横田純子さん。農業や食を柱としたグリーンツーリズムについて学んだ。


農業を夢のある産業に



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 山口さんは、自身とその仲間らで開設した長崎県大村市の「おおむら夢ファームシュシュ」における「観光産業」の取組を紹介し、農業の可能性を熱く、そして楽しく語った。
 本誌5号でも特集を組んだおおむら夢ファームシュシュは、長崎空港から車で15分程度の場所にあり、年間約49万人もの人が訪れる人気店。地場産の農産物や加工品を販売する直売所を中心に、アイス工房やパン工房、洋菓子工房、バイキングレストラン、収穫体験施設が併設する、農業複合施設だ。これをツーリズムと結び付け「観光産業」として進めている。
 「金がないなら知恵を出せ。ないものねだりではなくあるもの探しをしよう」と山口さん。その言葉通り、シュシュの取り組みは、様々なアイディアに満ちている。

 例えば、バイキングレストラン。消費者からしたら直売所の魅力は「旬の野菜がたっぷりあること」。しかしその一方で、旬の時期たくさんとれる野菜は、多くの農家が作っているため、出荷量も多く売れ残ってしまいがちだ。また、珍しい野菜についても同様。変わった野菜に出会えることは直売所の面白さでもあるが、まだ食べたことのない新しい野菜は消費者にとって手に取りづらいために売るのも難しい。そこでシュシュでは、ランチバイキングにそうした野菜をたっぷりと使うという。「試食に出すだけではなかなか売れないものも、昼ご飯に提供すると、みなさん帰りがけに買っていってくれるんです」
 他にも、同店では、このレストランを使った「ウエディング」までも提案している。全国には数多くの直売所があるが、ウエディングまで行う直売所は、シュシュをおいて他にないのではないだろうか。
 シュシュの結婚式では、同店で販売する加工品にオリジナルラベルをつけて引き出物としたり、新郎新婦に受粉作業をしてもらって作ったフルーツジュースを提供するなど、楽しい工夫がいっぱいだ。

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 さらに、ウエディングだけではない。法要までも執り行っているというから驚く。
 「直売施設で法要というと驚かれますが、菊の花や、お料理、引き出物…農業の可能性がこれだけ詰まっているんです」という山口さんの言葉には、参加者らも深くうなずいた。
 「『農業は厳しい』と言っていても誰も寄ってこないけれど、『農業は楽しい』と言っていれば、人が集まる。シュシュは、農業を通して『不安』ではなく『ファン』を募りたい」と山口さん。「自分たちで可能性を探して、農業を夢のある産業にしましょう」と明るく訴えた。「観光産業でお客さんに感動を与え、農家に希望を!」
 


福島食材を使って地産地消のおもてなし



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 二人目の講師は、福島県でNPO法人素材広場を運営する横田順子さん。同団体の活動内容は、福島県内の「お宿」と「農家」を結ぶこと。
 横田さんは現在の旅行形態について、「インターネットが普及したことで、旅行業者が中心的存在だった時代から、ネット予約による個人旅行の時代になった」と解説。「かつて流行した食べ放題の時代は終わり、その土地で作られた地元食材が喜ばれる時代」であると説明した。
 しかし、現実問題、旅館側は前日ないし当日になって必要な食材が決まる。そして農家は農家で、当日そんな注文を受けても応え切れないことのほうが多い。そこで彼女のような「パイプ役」が必要となるのだ。横田さんらは、福島県内の地産地消に取り組む旅館と地元の生産者をネットワークでつなぐことで、両者の連携を可能としている。
 また、彼女の役割はただのパイプ役にとどまらない。地元生産者の作った食材をどのように調理提供するかと企画提案し、さらには、料理提供時にどのように食事説明をするかの指導までを行っている。
 「10品以上お出しする料理のすべてを説明しなくてもいいんです。絶対にオススメしたい3品だけは、必ず説明しようと言っています。その一言が、その一品の価値をすごく高めるんです」と横田さん。実際、彼女が食事説明を指導して数年が経ったある宿では、料理内容もシェフも変わっていないにも関わらず、「あの宿の料理はとても良い」と、評判になったのだと言う。仲居さんらによる説明を加えたことが、宿泊者にとっての食事の価値を高めたのだ。
 自身の活動について「1つの素材でものすごく振り回される毎日ですが、頑張っている料理人が『勝宿』にならないといけないと思っています」と力を込めて話した。 



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GAPとは「Good Agricultural Practice」の略で〝良い農業の実施〟の意味。「人間の健康」「自然の環境」を守り、「持続的農業」生産を行い、消費者に信頼される健全な農業を実践することです。科学的知見に基づきながら、食品安全だけでなく、環境保全や労働安全など幅広い分野を対象とし、法令やリスクを認識しつつ、持続的な農業生産を目指します。

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