地元、信州の農・食・暮らしを発信 ―さんちょく新聞より―

信州の野良スイーツを召し上がれ

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 かつて、田植えは特別な日でした。田植えの手伝いに、近所、親戚中が集まる日であり、また1年の豊作を祈る日でもありました。そうした日の「おこひる」には、特別に「甘いごちそう」が並びました。現在ではそうしたにぎやかな田植えも見られなくなりましたが、野良で食べた甘い記憶は、今でもしっかりと受け継がれています。
 産直新聞では、そんな信州の農と暮らしが育んだ甘いごちそうを、「野良スイーツ」と名付けました。今号では、伝統的なものから最近新しく生まれたものまで、信州の直売所で食べられる「野良スイーツ」を大特集! さぁ、信州の農と暮らしが生んだ「野良スイーツ」を召し上がれ。

「おこひる」って?



 信州の各地域でみられる風習で、農繁期に、朝食と昼食の間、もしくは、昼食と夕食の間に食べる食事のことを指す。地域によって、「こびり」「おこびれ」「こびる」などと呼ばれていた。農作業の合間に食べることが多く、煮物やおにぎりといった、惣菜や主食も並んだ。「お小昼」とも書く。

農繁期のはじまり。
甘いもので「精を出す」



 かつて、「田植え」といえばお祭り騒ぎだったそうだ。農閑期が終わり、忙しい季節がやってくる。そんな季節の始まりを告げる行事のひとつが田植えだ。しかし、冬場になまった体を動かすから、疲れやすい。だからこそ、おこひるには、甘いものが欠かせなかった。
 近所中の田植えを一緒に行うのが、かつての田舎の習わしだ。地域によって呼び名は様々だが、そうした集落のつながりを、「結(ゆい・えい)」と呼ぶ。近所、親戚、手伝いに来てくれる全員分のおこひるを作らなければならなかったため、女性達は農作業以外にも大仕事が待っていた。季節に合った、手早く、そして皆に満足してもらう、そんな料理の数々。「田植えのご馳走に」と、保存のきくもの、珍しいものをと、1年中心がけていたという。田植えが終われば、地域でお触れを出して「農休み」を取り、皆に甘いものを振る舞ったりした地域もあった。そうして生まれた農家の食の知恵は、南北に長い信州の土地柄や気候風土によって、多種多様に育まれた。貴重な砂糖も、豊作を願うこの時期は特別だ。甘いものは特に、皆の疲れを癒すもの―。
 時代は流れ、今では機械によってあっという間に田植えも終わってしまう。こうした話も昔話のように語られる。女性達の負担も軽くなった。しかし、おこひるに食べた甘い思い出は、その土地の記憶として、今も残る。かつてのそうした甘い記憶を辿ってみると、土地の豊作を願った賑やかな初夏の農家の暮らしが目に浮かんでくるようだ。

直売所で買えるものも!
各地の伝統的なおこひるの「甘いもの」



草だんご・草餅



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 春先に摘んだヨモギを使って作る草だんごや草餅は、定番のおこひるのお菓子だ。ヨモギの香りが口いっぱいに広がり、甘いあんこが疲れを癒してくれる。(全地域)


煮豆



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 冬場も保存がきく豆類は貴重なたんぱく源。ささげ豆、花豆など、甘く煮た煮豆は、おこひるに最適。(全地域)


ぼた餅・おはぎ



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 手間のかかるぼた餅(おはぎ)は、普段の農作業にはなかなか出てはこないけれど、お祭り騒ぎの田植えにはご馳走として振る舞われることも多かったという。甘いあんこやきな粉にゴマ、地域によってはクルミやエゴマもまぶした。農繁期のご馳走だ。(全地域)


凍り餅



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 冬についた餅を紙で包んで水につけ、真冬に天日にさらす。厳しい信州の冬が生んだ保存食は、農繁期のおこひるとなる。水で戻してトロトロになったところに砂糖を入れるのが定番だが、砂糖醤油やきな粉と砂糖であべかわ風など、食べ方はいろいろだ。(松本・安曇野・北安曇地域など)


朴葉巻



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 木曽地域の初夏の風物詩である朴葉巻。米粉で作ったあんこ入りの団子を朴の葉で包み、蒸かす。おこひるの朴葉巻は、お腹にたまるよう、大きくでっぷりとしていたそうだ。(木曽地域)


うすやき・こねつけ



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 うすやきは小麦粉を水や卵で溶いて焼き、はちみつや甘い味噌ダレで食べる。そこにご飯を入れたものを北信では「こねつけ」という。薄くのばした小麦粉の上に、あんこ(ナスなどの旬の野菜の場合も)をひいて、さらにその上に小麦粉を流し、ひっくり返して焼いたものを「うすやき」と呼ぶ地域もある。それを切り分けて食べる。忙しい農家の甘いものづくりは、手早く簡単に、そしておいしくが鉄則だ。(中信・北信・東信など)


きなこむすび



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 おこひるに必ず作られたという地域が多い「きなこむすび」。甘い(塩味の地域も)きな粉をおむすびにまぶして、お重に一杯に入れて田に持って行く。今ではあまり作られないが、かつてはこぶし大程の大きなきなこむすびを田の神様へ供える風習を持つ地域もあったそうだ。きなこの黄色を稲穂の色に見立てて、豊かな実りを願ったという。(全地域)


おやき



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 蒸したもの、焼いたもの、蒸し焼きにしたもの、灰焼きなど、信州のソウルフード「おやき」も地域によって作り方は様々。このおやきも、農繁期のおこひるのひとつ。野菜だけでなく、あんこを具にすれば、甘いスイーツにもなった。(全地域)

 ここで紹介した以外にも、各地域で、個性豊かな「野良スイーツ」があります。ぜひ、お住まいの地域の野良スイーツを探してみましょう!

(平成28.5.23 産直新聞第93号より)