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信州全域で歴史的大雪直売所のネットワークで雪害を乗り越えよう!〜その2〜

雪国の対策は? 信州最北の雪国信濃町で聞く



 例年冬になると雪に閉ざされる信濃町。4mを越える雪が積もることは珍しいことではない。そうした雪国でもパイプハウスは作られている。雪国の対策はどのようなものなのか? 道の駅しなの「ふるさと天望館」(信濃町)で聞いた。

25mmの太めのアーチパイプで上部にはダイバーを入れ、さらに冬場は真ん中に支柱を入れ補強している
25mmの太めのアーチパイプで上部にはダイバーを入れ、さらに冬場は真ん中に支柱を入れ補強している


パイプハウスの構造上の違い



 出荷組合長の戸田宏さんは、所有するハウスのうちの1棟を冬場もナイロンをかけたままにしているという。農業機械や農業資材を入れておくためだ。作物を作るためではないとはいえ、大事な資産を守るためにパイプハウスはしっかりと豪雪対策を行っている。

 戸田さんのパイプハウスは25ミリメートルの太目のアーチパイプで、40センチメートル間隔と間隔も狭い。(雪の少ない地域は60センチメートル間隔位だそうだ。)さらに、5本に1本は単管を入れ補強、上部には逆T字型に取り付けたパイプ(タイバー)、さらに冬場は中心に何本もの支柱となるパイプを入れ、雪の重みに耐えられるよう設計した作りになっている。ビニールも5年は使えるような丈夫な素材を用いる。
 さらに、ハウスとハウスの間隔も重要だ。信濃町では連棟にしているパイプハウスはなく、必ず1~2mの間隔を設けているという。


基本は除雪



 雪に耐えられるよう万全な対策をしているように見えるが「基本は除雪」なのだと戸田さんは言う。パイプハウスの肩の部分、下から2m位まで雪が積もるその前に、早めに除雪に入るのだそうだ。雪が降り始めたら積もる量を絶えず観察しているという。ここでは雪を飛ばして除雪するロータリー除雪車が活躍する。一台はロータリー除雪車を保有する家庭が多いというのも、雪国とそれ以外の地域との違いだろう。

 また雪を飛ばすことも念頭に入れ、ハウスを建てる。除雪した雪は水を含んでさらに重くなるため、それを再度飛ばそうとするのは難しいためだ。除雪するタイミングは降ってからすぐ、雪が軽いうちに早めに行うことがカギだという。

 2月の大雪に対して、道の駅しなの支配人・石川俊明さんは「雪質の違い」も指摘する。「信濃町で降る雪は、さらさらとした軽い雪である場合が多い。2月に関東甲信地方で降った大雪は、春先に降るような水分を多く含んだ重い雪だったように思う」と話す。


雪によってかかる「力」



 降雪によって、多くの場合、以下の3つの力がかかるのだという。
(1)雪の重みで押す力
(2)密度の違う雪が層になってはみ出る力
(3)融雪により引っ張る力

 まず(1)押す力は想像し易い。ハウスに降った雪はまず、上部を滑り落ちながら両端に溜まっていく。間隔が狭いと特に横側に雪が堆積し、上部から雪が落ちなくなる。すると、横から、そして斜め上からの押す力がハウスにかかってしまう。また、連棟のハウスの場合は上部の雪が落ちず、上からの圧力によって押し潰されてしまうのだ。

 (2)はみ出る力は雪国の人でないとなかなか分からないものかもしれない。(1)のように横に降り積もった雪は、日が経つと徐々に上部が融雪していく。そしてまた新雪が降り、上部が融雪し、ということを繰り返していくうちに、硬い雪と柔らかい雪の層が出来る。そういて上から圧力がかかると、挟まれた柔らかい雪がはみ出て、パイプハウスを横から押し倒してしまう場合があるそうだ。

 (3)引っ張る力も雪の少ない地域ではなかなか感じられない力だろう。積雪した雪は、時間が経つと徐々に融雪し、斜面を滑り落ちていく。この滑り落ちていく際の力が雪の引っ張り力だ。
 パイプハウスに使われる鉄は冷えやすく、雪が付き易い。ドライアイスに指を付けると引っ付いてしまう感じを思い浮かべて貰えばいいかもしれない。そうしてパイプを掴んだまま融雪に従って徐々に雪が落ち始めると引っ張る力が生じ、ハウスを倒壊させてしまうことがあるのだ。

 これらの雪の知識は、信濃町の人々にとってみれば「常識」であるのだという。雪の知識を知り、それに対して何を行えばよいのか、常に考えを巡らすことができることは雪国における雪対策のひとつなのかもしれない。


雪国の対策とは



5本に1本は単管を入れ、さらに補強している
5本に1本は単管を入れ、さらに補強している
 
 雪国の対策は以下のようなものにまとめられる。

(1)太目のアーチパイプを使い、タイバーや補強パイプ、支柱を入れハウスを補強する。
(2)雪が落ちやすいように、また除雪がし易いように連棟にはせず、ハウス間は1~2mの間隔を空ける。
(3)除雪のために常に雪の様子を観察。
(4)肩まで積もる前にロータリー除雪車で除雪を行う。
(5)雪に対する知識を持つ。

 雪害に強いパイプハウスを建てるには、これまでよりも多くの資金投入が必要だ。数十年に一度の大雪のために高価なロータリー除雪車を購入する訳にはいかないと思われる。また信濃町では冬場に作物を作る生産者は少ない。そうした状況の違いもあるため一概に全てを当てはめることはできないかもしれない。

 しかし、雪国の対策から、学ぶべき部分も多い。特に雪に対する知識を持つことは、すぐにでも出来る対策のひとつだろう。
 春も訪れ、寒さは遠のいたが、再び冬はやってくる。忘れた頃に災害は起こるというが、再び豪雪となった際、この経験を活かせるよう準備をしたい。


被災された農家への支援



 生産施設の再建や修繕の費用を国が5割、県と市町村が各2割を負担しています。撤去費用は国が5割、県と市町村が残りを半分ずつ負担することを決めています。農業改良普及センターが窓口になっています。管轄地域の普及センターにご相談下さい。

(1) 平成25年度の大雪により被害を受けた、農産物の生産に必要な施設 (農業用ハウス、果樹棚、畜舎等)の再建・修繕、農業用機械の取得について助成します。
(2) 農産物の生産に必要な施設の撤去についても助成します。
(3) 施設の再建・修繕、農業用機械の取得は、国が 1/2を助成します。(地方公共団体が4/10を助成する場合には、農業者の負担は 1/10になります)
(4) 撤去は、10/10相当を定額助成します(地方公共団体が1/2相当を負担することを前提に、国が1/2相当を補助)。
(5)大雪により被害を受けた日以降の取組(着工)であれば、事業計画承認等の手続き前の取組でも対象となります。(施設の被害状況、作業を行った者、日付け、費用の額が分かる書き物や写真、作業を外注した場合の発注書、納品書、請求書、領収書などの書類の保存をお願いします)

(平成26.4.25 産直新聞第87号)
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