直売所がこの先生きる道を共に探る

直売所一斉ヒアリング in 長野・集計

直売所の現在とこれからを考える
〜ヒアリングで浮かび上がった課題と独自の取り組み〜



 長野県を舞台に4月からスタートした「環境にやさしい農業」実践直売所育成事業。4~5月にかけて、長野県内の有人・常設の直売所を対象にして、産直新聞社のスタッフと長野県農業改良普及センターの担当者が聞き取り調査をしました。聞き取り項目は、経営規模・運営状況・栽培技術向上の取組み状況・加工や農家レストランとの連携状況などについてです。

 通年営業で店舗を持つ220箇所の直売所のうち、合計133箇所の店舗を訪問し、調査にご協力頂きました。本誌ではヒアリングの結果を集計し、グラフから直売所の現在とこれからを考えます。なお、通年営業の店のうちJA系の約60店舗は、JA長野中央会さんの方で結果を集計しているところです。


直売所ヒアリング集計結果



 ヒアリング時には、直売所の運営に関する多領域について取材させていただきましたが、本号ではその中から主要12項目について集計し、グラフにまとめました。項目は次に示す通りです。

 (1)活動開始年
 (2)組合員数
 (3)年間売上げ額
 (4)年間売上げ額
    対前年比
 (5)年間客数
 (6)客単価
 (7)売上げのうち
    農産物が占める割合
 (8)売上げのうち市場
    仕入れの占める割合
 (9)ネット販売の有無
 (10)直売所に併設された
    加工所の有無
 (11)直売所に併設された
    飲食スペースの有無
 (12)栽培履歴の取り扱い について
  
 なお訪問店舗は133箇所ですが、時間や各店舗の都合上、質問し切れなかった項目もありました。

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(1)活動開始年



 活動開始年は、1996年から2005年に集中しており、その頃から直売所の新設ラッシュが始まったことがわかります。「周辺地域に新しい直売所が増えたことで、年間売上げ額が減っている」との声が、古くからある直売所の中から聞かれました。


(2)組合員数



 組合組織を持たない直売所も多くありましたが、そういった直売所においては、普段出荷している出荷者の数をお聞きしました。
 組合員数が200人を超えるような大規模な組合がある直売所においても、実働はその半分以下だという直売所が多くありました。


(3)年間売上げ額



 最も大きな割合を占めたのは、年間売上額1000万円以上4000万円未満に該当する直売所でした。売上金1億円以上の直売所は、133軒中29箇所と、全体の21%を占めています。

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(4)年間売上げ額  対前年度比



 これを見ると半分以上の直売所で売上げ額は増加していることがわかります。増加している直売所にはどういった特徴があり、減少している直売所はどんな店舗なのか、ということは後述します。


(5)年間客数



 年間客数が1万人未満の直売所が12ヶ所と、少ない値ではありますが、年間客数自体をカウントしていない店舗も多くありました。また規模の小さい直売所において、そのような傾向がより多くみられるため、年間客数が比較的少ない店舗は、グラフに示されている以上に存在すると思われます。


(6)客単価



 客単価についても、前述した年観客数と同様に、一人当たりの単価を計算していない直売所が多くあったため、未回答の占める割合が大きくなっています。


(7)売上げのうち 農産物が占める割合



 売上げのうち農産物の占める割合は、7割以上と回答した直売所が60店舗で、全体の半数近くを占めています。土産物や加工品中心の直売所もありますが、直売所で取り扱う商品の概ねは、農産物だと言えるでしょう。


(8)農産物のうち 市場仕入れの占める割合



 農産物のうち市場仕入れの占める割合は、1割未満と回答した直売所が60店舗で、その土地の農産物を販売する直売所が主流であることがわかりました。またそういった店舗では、「冬場、売り物がない場合のみ市場仕入れに頼る」といった声や、「市場仕入れに頼らずにいかに直売所を運営するかが課題だ」といった意見が聞かれました。そのような声は、その土地の農産物を売ることが、直売所としての使命だという考えに基づくところが大きいようです。

 一方で、大きな売上げがあっても、地元農産物の占める割合が、3割から5割という店舗も見受けられました。直売所農業のより一層の生産力向上が課題であることが浮かび上がりました。


(9)ネット販売の有無



 ネット販売は、行なっていると答えた直売所が26店舗ありましたが、「あまり力は入れていない」といった声や「一応体制は整えてはいるが、ほとんど売れない」といった声が多く挙がり、インターネット上で、売ることの出来る形だけをととのえても、それが売上げ増加に直結するわけではなく、それを上手に活用させることは、多くの直売所で課題となっています。なお、この設問については、店のホームページの有無に関わらず、インターネット上のほかの媒体を利用しての販売形態である場合も含まれています。


(10)直売所に併設された加工所の有無



 併設の加工所は、持っていると答えた店舗が38%と、割合的には少ない結果となりましたが、併設の加工所はなくとも、直売所として加工業者に食品加工を委託しているといった店舗や、今後取り組みたいこととして食品加工をあげた直売所は多くありました。長野県の直売所運営での課題とされる、冬場の品物不足に、多くの直売所が食品加工によって活路を開いています。

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(11)直売所に併設された飲食スペースの有無



 直売所併設の飲食スペースは、無いと回答した直売所が62%で、多数派でしたが、現時点では飲食スペースを持たない直売所においても、売り切れなかった野菜の活用や、直売所を訪れる人数を増やすために、飲食スペースを設けたいと考えているという声は多く挙がりました。


(12)栽培履歴の取り扱いについて



 栽培履歴は、各店舗ごとでその取り扱いがさまざまだったため、その管理について3段階に細かく項目分けしました。
 栽培履歴の取り扱いについて、特に決まりを設けていない店舗は44%でしたが、予想に反し、半数以上の直売所では、生産者との間で、履歴をつける決まりになっていることがわかりました。もちろん、決まりはあっても生産者からの理解を得られず必ずしも守られてはいない、との声は多く挙がりました。

 そして、栽培履歴をつける決まりがあると答えた直売所のうち、それを店側へ提出する決まりが有ると答えた店舗は39%でした。これについても、取り決めはあっても、提出率は100%ではないと回答した直売所が多く、栽培履歴の管理については課題が残りました。
 栽培履歴の提出を義務づけている直売所のうち、それをチェックしていると答えた直売所は、直売所の運営者の中で栽培履歴を読める人物がいるというところもあれば、JA等の外部機関にその管理を委託しているという店舗もありました。


活動開始年別に見る売上げ状況



 年間売上げ額の対前年比のグラフを見ると、増加している直売所が53%と、半数以上の割合を占めています。これだけ見ると、多くの直売所で経営状態は良好のように見えます。しかしこれを、直売所の活動開始年別に見てみると、活動開始年が古くなればなるほど、売上げが減少している店舗の割合が増え、直売所の経営状態が厳しくなっているという傾向が見えてきます。直売所の新設ラッシュが、昔からある直売所の経営に影響を与え、その運営を苦しめていると言えるでしょう。


高齢化による直売所の課題



 またそういった、昔から活動を続けている直売所では特に、年月の経過と共に、生産者も高齢化し、次に挙げるような、多くの課題が生まれているということがわかりました。

「山菜やきのこをメインに扱ってきたが、高齢化で山に入る人が減少し、売れ筋商品が不足してしまう」。
「野菜を作っても、高齢で直売所まで持ってこられない人もいる」。
「皆、年をとってしまって新しい取り組みに対してなかなか積極的になってくれない」。
「運営する側も高齢化してしまったが後継者がいない」。
「主力商品はとうもろこしだが、生産者が高齢化し、需要に対して供給が追いつかず取り合いになっている状態」。
「ネット販売等にも取り組みたいが、若い人がいないからなかなか始められない」。
 
 これらの切実な問題に、今後も直売所の運営を継続していくことに困難を感じている店舗は少なくないようです。

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直売所ごとの取組みを消費者にアピールするために



 ヒアリングを行なうなかで、GAPについてはよく知らない、と答えた店舗においても、「心得表」や、「誓約書」を作って、直売所と生産者との間で守るべき取り決めが定められているという店舗はいくつもありました。
 それらの中身は、農薬の管理や、栽培履歴の記録、商品陳列等に関する取り決めであり、直売所を管理運営するうえで必要となる生産者との約束です。それらの取り決めを、店に貼り出して、消費者から見える状態にしているところもあれば、生産者に配布して、皆でその内容を共有している、といった店もありました。ただ、取り決めを定めているところまではしていても、そこから一歩進んで、それが本当に実施されているのかを点検までしている店舗はほとんどありませんでした。

 これらの取組みを、店として消費者にアピールするために必要なのは、その取り決めが実際に守られているという根拠です。根拠を示すには、定めた取り決めをただ明示するのではなく、それが守られているのかを自己点検するという仕組みが必要となります。自己点検する体制を構築することこそが、GAPの実践と言えるでしょう。
 そして、直売所ごとにそれらの取り組みを徹底することが、生産者の栽培技術の向上や、店舗の運営状況改善を後押しし、その店独自の魅力アップにつながるはずです。


栽培履歴の取り扱い、浮かび上がる先進事例



ほりがね物産センター(安曇野市)
消費者も生産者も「安心安全」を感じられるように



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 「ほりがね物産センター」(安曇野市)は、昭和62年に旧堀金村の一地域の直売所として始まり、平成3年、現在の場所でプレハブでの営業を開始。平成10年には道の駅としての指定も受け、市内でも確かな存在感を誇る直売所として営業を続けています。

 出荷している人には全員に防除歴、生産履歴の提示を義務付けています。防除歴は組合員が管理、チェックする体制をととのえています。また、防除歴を分かりやすくした「防除カード」を作り、出荷物の前に貼りだし、消費者に安心して購入して貰えるよう情報提供を行っています。このように誰しもが防除歴に目を通すことが出来るという仕組みを作り、店全体で徹底している直売所はあまり多くありません。消費者に安心して購入してもらうため、そして生産者は自信を持って商品を販売するための取組みです。


道の駅 北信州やまのうち農産物直売所「野菜くだもの市会」(山ノ内町)
栽培履歴を内部でチェック 生産者の意識の向上に



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 同店の直売所は、町内の生産者で組織された「野菜くだもの市会」が出荷・販売を行っています。全員に事前の栽培日誌の提出が義務付けられています。それを道の駅店長の湯本富佐司さんがチェックし出荷の可否を判断する、という体制を取っています。7年前からの取組みです。チェックには、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)HP内で公開されている農薬登録情報提供システムを利用するほか、リンゴなどの出荷が多い品目に関しては、店長自身が作成した表に基づきチェックを行っているそうです。

 さらに昨年度から商品管理委員を品目ごとに指名し、品質等の改善指導にまわる仕組みを作りました。また年1回、2日間にかけて農薬管理などについての講習会を行い、出席を義務付けています。これに出席しなければ出荷は出来ません。昨年度はこの講習会の中で「生産者GAP」についての説明も行いました。今後は、GAPに関するチェックシートを配布し、各生産者が安全な農業ができるよう、意識づけを行っていきたいといいます。


道の駅 雷電くるみの里(東御市)
履歴のチェックが農産物の安心・安全を裏付ける



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 雷電くるみの里では、生産者が出荷の三日前までに特別栽培記録表(栽培履歴)を提出する決まりになっています。また、提出された栽培記録表は、チェック担当の職員が、品種ごとに、使用された農薬の種類やその散布量についてを、確認してから販売しています。チェックする中で、わからない農薬が出てきた場合には、本やインターネットでその農薬について調べ、安全性を確認しているそうです。組合に加入する人には、「安心安全の誓約書」を書いてもらい、栽培履歴を提出することを約束してもらってから、組合員になってもらっているとのことでした。

 「栽培履歴をチェックしなければ、売る側として、その農産物の安全を確認する手立てがない。いち農家としても、栽培記録をつけておけば、翌年に振り返ることのできる良い資料になる。直売所だけでなく、農家にとっても良いことだと思う」。栽培履歴のチェックを専門に行なっている職員の秋山さんは、そう言って、栽培履歴の管理の大切さを話してくれました。


米沢地場産みどり市(茅野市)
人と環境に優しい栽培でブランド米へ



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 茅野市の「米沢地場産みどり市」では、米を米沢米と名付けてブランド化を進めています。特徴は、部会で減農薬栽培を進め信州の「環境に優しい農産物」認証を取得している点です。「環境と体に優しい農産物を届けたいという思いから始まった直売事業ですから、農薬を減らしてということに、皆で協力してきました。その中で、栽培技術が向上し食味が上がってきた事が最大のメリットだったと思います」と会長の土橋二郎さんは話します。
 今では、その味が評判になり、地元のお客さんから、観光客まで様々な人がリピーターになっています。

 しかし、みどり市の米部会で減農薬を進めるまでには、様々な困難があったといいます。特にネックになったのは、減農薬栽培等に伴い、米の収量が落ちてしまうということでした。しかし、毎年の講習会や啓蒙活動によって、生産者の意識が変わり全体で減農薬に取り組むようになりました。更に平成21年からは、生産者から米を秋に買取り、一括で管理・販売を行なう方式に換えました。「生産者に作ってもらったものを売り切るという思いを持って取り組んでいます」と土橋会長は話してくれました。

(平成26.6.17 産直新聞 GAP号外より)
アグニコ

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GAPとは

GAPとは「Good Agricultural Practice」の略で〝良い農業の実施〟の意味。「人間の健康」「自然の環境」を守り、「持続的農業」生産を行い、消費者に信頼される健全な農業を実践することです。科学的知見に基づきながら、食品安全だけでなく、環境保全や労働安全など幅広い分野を対象とし、法令やリスクを認識しつつ、持続的な農業生産を目指します。

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