全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

学校給食その3 地域で〝食〟を支える 長谷中学校の挑戦

タイトルなし

 長野県は伊那市長谷地区。南アルプスと伊那山地の中間に位置する山間部にある伊那市立長谷中学校では、昭和36年の開校当時から、子どもたちに「食」の大切さを伝えることに力を入れてきた。現在の生徒数は全校で34名。
 同校に併設された給食調理室では、長谷小学校と長谷中学校の生徒と教職員合わせて約150人分の給食が毎日作られている。
 地域の高齢者割合は40%を超え、世帯数、人口の減少が年々進むこの地域。長谷では、食を通し子どもたちに何を教え、そしてどのような課題を抱えているのか、同校の高木幸伸現校長にお話をうかがった。

ランチルーム



タイトルなし

 「長谷中学校には、開校時から今に至るまで、食を大切にする考え方が根付いています」。高木校長はそう話す。同校には、生徒たちが給食を食べる専用の「ランチルーム」がある。これは、〝学ぶところと食べるところは別であるべき〟という考えのもと、開校時に造られた部屋で、長野県内でも初めての試みだったという。
 給食の時間には全校生徒がこの広間に集まり、皆で一緒に給食を食べる。食べる時間を大切にしてきた同校では、給食の残数は毎日ほぼ0。「それが当たり前の光景」だという。生徒たちの中で食を大切にする精神が根付いていることの表れだ。
 また、毎日同じ空間で顔を合わせて食事することは、生徒同士の連帯感も生むのだという。

麦わら帽子の会



タイトルなし

 「食を大事にするのが伝統で、食に対しては地域の人も大事に支えてきてくれた歴史がある」と語る高木校長。
 地元農家で組織された「麦わらぼうしの会」は、給食における地場産野菜の活用を長年にわたり支えてきてくれたグループだ。平成初期のころに、給食への食材提供を目的に22件の農家によって発足したこの会は、農協出荷価格の8割ほどでこれまでずっと長谷の小中学生に給食食材を提供してきてくれたという。
 「長谷の給食は長谷の人で支えるという考えが地域にあり、かつては会員の協力によって、地場産野菜の活用率が50%以上ありました」
 しかし、会員の高齢化や、農業の後継者不足により会員数は年々減少の一途をたどる。2015年には会員が2件のみとなり、同会からの食材活用率は数%にまで減少してしまった。そして、残った2名も高齢のために今年の3月で給食への食材提供を断念することになってしまったという。「長谷の少子高齢化は地域住民が危機感をおぼえるところまで来ている」と堅い表情で話す。
 2016年度以降は、地域の農業法人に食材提供を依頼することも検討中だそうだ。

生徒が育てる畑



タイトルなし

 そんな中、高木校長を中心に、現在同校で力を入れているのが、給食に使う食材を生徒自身の手で育てようとする取り組みだ。これは、伊那市が学校生活の中に農作業を取り入れようと開始した食育事業「暮らしの中の食」の一環で開始したもので、2015年から、学校の敷地内や、周囲に借りた畑を活用してじゃがいもやさつまいも、とうもろこし、ナス、トマト、ピーマンなどの栽培を始めた。そこで収穫した野菜はそのまま給食室へと運び、給食に使われる。もちろん、生徒だけで管理しきれない部分もあるため、教職員らも世話をしながらこの畑を維持しているという。現在は借りた7aほどの畑と、校内の20坪ほどの花壇を活用し野菜を栽培している。「遊休農地の問題や農業の衰退の問題を抱えながらも、中学生が頑張っているところを見せて、地域の活性化につなげたい」。言葉に熱がこもる。
 栽培方法は、農業経験のある高木校長が自ら中心になって子どもたちにレクチャーしているそうだ。
 「『農業には景観を維持する意味もある。おじいちゃんおばあちゃんたちが守ってきた畑がこの地域の景観を維持するのに大切な役割を担ってきたんだよ』と、子供たちに畑で伝えています。誰かが守っていかないと地域の景観は維持できないものなのだということを知ってほしい」
 しかし、この取り組みには教師の負担も大きいため、賛同する声ばかりではないという。「難しいですね」。課題も残る。

中学校を地域の人の社交場に



タイトルなし

 これに対する解決策として同校で構想しているのが、〝信州型コミュニティスクール〟だ。これは、長野県教育委員会が推進している仕組みで、端的に言えば地域の人に、学校の運営に積極的に参加してもらおうというもの。スポーツ指導や、本の読み聞かせ、歴史学習の指導など、その実施方法は学校によってさまざまだ。
 長谷中学校では、同校に併設された客室を地域住民に開放し、お茶を出し、学校を地域の社交場としてもらうことを計画している。そしてそこへ集まる人々に、学校の畑の手入れもしてもらおうという構想だ。
 これは何も、畑の管理のためだけに考えていることではない。それよりもむしろ、高齢化が進むこの地域で「家で孤立しているお年寄りに活躍の場を与え、年寄りが活躍できる学校にしたい」という思いがある。「年寄りが元気な村を造らなくちゃいけない。今の中高年が将来どんな老後を送りたいかを考えて地域を作ることが重要。でないと将来に希望も持てない。地域に対し、ここに暮らす人自身がもっと明るいイメージを持てるようにしなくては」。地域にかける思いは強い。
 「学校で農業をするということは、給食への地場産野菜の活用というだけでなく、世代間交流や景観保全、農業技術の伝承、地域活性化などのありとあらゆる可能性を秘めている」と高木校長は力強く語った。
 少子高齢化が進み、多くの課題を抱える中山間地域。しかし、その地域ごとに、その場所だからこそできる挑戦の形があるのだということを教えられた。

(平成28.5.18 産直コペルvol.17より)
産直コペルとは

全国の直売所や地域おこしの先進事例が盛りだくさん!「農と暮らしの新たな視点を探る」をテーマに、日本各地で地域おこしに奮闘する人々を取材した隔月発行の全国誌です。購読のお申し込みはこちら! 年間6冊3,300円(税・送料込み)です。

別冊産直コペル

手づくりラベルで農産物&加工品の魅力UP大作戦!
商品のラベルづくりにお悩みの農産物直売所、生産者、農産加工所の皆さま、必見の1冊!

バックナンバー

産直コペルのバックナンバーはこちら!

記事一覧