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学校給食その2 学校給食は生きた教材

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 学校給食のあり方は「自校方式」と「センター方式」に大別される。その割合は、全国的に見るとほぼ半々で推移している。
 そんな中、市内のほとんどの小学校(77校中68校)が自校方式を採用している注目すべき地域が存在する。広島県福山市だ。自校方式にこだわる福山市の取組みを取材するなかで、自校方式ならではの食育の特徴や、地域の人々のつながりがあることが見えてきた。


自校方式のメリット



 限られた財源の中でやり繰りすることを考えれば、大規模で労働集約的なセンター方式は、コスト削減の面で有利になることは間違いのないことだ。現に、少子化の影響や学校の統廃合を機にセンター方式へと移行するケースは全国的に見られる。では何故、福山市は自校方式にこだわるのか?
 「センター方式であれ自校方式であれそれぞれに良い面がありますが、自校方式は地産地消に取り組みやすく、物理的、心理的な距離を縮めることができる良さがあり、その価値はプライスレスです」と福山市学校保健課担当のAさんは話す。
 自分達が食べている給食は、誰がどこでどうやって作っているのか―これが実際に見える身近な給食は、子どもの情操教育に大いに役立つことは明らかだ。
 それだけでなはない。「そういった情緒的な側面だけでなく、児童のアレルギーへの細やかな対応が出来ることも自校方式のメリット」だとAさんは続ける。
 「例えば、大豆がアレルギー源となる子に対しては、麻婆豆腐の日に豆腐を取り除かなければなりませんが、ただ取り除くだけの除去食的な対応ではなく、栄養のことも考え豆腐の代わりに茄子を入れ、麻婆茄子とするといった代替食での対応が利くことが自校方式の強みになっています」。そのような自校方式ならではのきめ細かな取組みを評価する声が地域の人々からも聞こえて来ているという。
 「ただし、あくまでも公共性の観点を失ってはならない」とAさんは付け加える。「情緒的な側面と経済的な側面のバランスをうまく取りながら、今後も出来る限り自校方式を続けていきたい」というのが強い気持ちだ。


瀬戸小学校の取組み



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 「生産者さんや地域の大人たちの顔が見える。そういう機会を設けることで、子ども達の感謝の気持ちが豊かに育ちます」そう話すのは福山市立瀬戸小学校校長の水本孝義さん。同校では、地域の大人と児童たちが同じ教室で一緒に給食を食べる会を定期的に開催している。
 生産者代表としてこの会に参加したホウレン草農家の若井克司さんは、畑の一画で給食用のトウモロコシ栽培にも取り組んでいる。「アレルギーの要因になりうるものはなるべく取り除きたい」との考えで極力農薬は使わない。「学校給食で儲けを出そうとは思ってなくて、子ども達のためになるのであれば、手間がかかっても安心安全な野菜を育てたい」とその思いを語る。
 トウモロコシの収穫適期は3日と短い。採れたての味はとびきり美味いが収穫後の鮮度低下が激しく、出来るだけ調理する直前に収穫するのが理想的だ。旬の味を子ども達に知ってもらうために、学校と相談しトウモロコシの収穫日に合わせ献立を入れ替えてもらうこともあるという。
 そういった融通の利く献立づくりをしてくれるのが、同校栄養教諭の今川京子さん。地域の人々からの信頼も厚く、児童たちにとってはお母さんのような存在だ。「何よりも地元の味を学校で伝えていけるように心掛けています。ちゃんと煮干しから出汁を取る、だしの素なんて使いません。うちで作るよりも手間がかかっています」と今川さんは笑う。
 こういった、生産者と学校給食担当者が直接つながり、生産者が学校に農産物を納入する瀬戸小学校のようなケースが、福山市では大多数を占める。
 その調整役を担っているのがJA福山市の販売課と同グリーンセンターだ。学校給食では、決まった量を決まった時期に安定的に納入できる体制づくりが重要となる。学校側の需要に沿って各農家の出荷の割振を調整する仕組みづくりも必要だ。福山市ではJAの販売課が学校・教育委員会側との品目・数量・情報などの調整窓口となり、市内各所にある同グリーンセンターが農家からの情報収集と農家への発注業務を行う。
 瀬戸小学校を管轄する瀬戸グリーンセンター営農指導員の伊藤洋子さんは「朝、渋滞する時間帯に納品する生産者の負担を減らすために、タマネギやジャガイモなど保存の効く野菜については、前日の夕方納品でも受け付けることになりました。学校側も生産者もお互いの都合を理解し融通し合う良好な関係が築けています」とにこやかに話す。
 「生産者、学校、 JAの三者が顔を合わせる機会が多く、お互いよく知った仲だから何でも言い合える。そこが一番の良さ」。3人はそう口を揃えた。


地域の大人達の姿



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 そして、忘れてはならないのが給食士の存在だ。時間に追われる中で、衛生面に気を使い、毎日変わる献立を手間を惜しまず手づくりする学校給食の調理現場は過酷だ。「あの現場を見たら生産者として変なものはつくれないと気が引き締まります」と農家の若井さんは背筋を伸ばす。自校方式の学校給食は、そこに関わる大人たちの苦労や思いが、子ども達の目に見える形で現れる。
 給食が机に運ばれてくるまでの「過程」がわかること、そしてそこで働く大人たちの「姿」がちゃんと見えること。それは子ども達の中に食への感謝の気持ちを育んでくれる。そして自分が生まれ育った地域の良さを、子ども達はきっといつか知る時が来るのだろう。学校給食はまさに生きた教材なのだと感じた。

(平成28.5.13 産直コペルvol.17より)
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