全国の地域おこしの先進事例が満載 ―産直コペルより―

学校給食その1 “食育”とは

タイトルなし

 給食の方針をつくり、管理し、また学校と生産者をつなぎ、さらに子供達へ食の大切さを伝える―地産地消の学校給食を進める上で、栄養教諭は重要な役割を果たしている。
 ここでは、長野県の栄養教諭として地産地消に尽力してきた朝日村立朝日小学校の杉木悦子さんに、地産地消による「食育」の重要性と、これまでの取り組みについて、話を聞いた。


豊かな心と「生きる力」を育むために



タイトルなし

 杉木さんは、「地産地消」という言葉が世間に定着する以前から、栄養教諭として学校給食にかかわる様々な取り組みを進めてきた第一人者だ。生産者に直にお願いして農産物を出荷してもらったり、郷土食を活かした献立を考案したりと、地域と学校との関係を切り拓き、児童の食育にも力を注いできた。
 杉木さんが現在働いている朝日小学校は、自校方式(単独直営方式)の学校給食を取り入れ、同村の「女性農業者担い手協議会」(通称:担い手さん)という40代~60代の女性22人からなる生産者団体からの食材納入を優先的に受け入れている。朝日村の産業振興課を窓口に、2008年から試行錯誤して食材納入を進めてきた。それから8年、村にも、学校にも定着してきた取り組みだという。
 杉木さんが朝日小学校に赴任してきたのは2015年の春。これまでの取り組みを基礎に、「担い手さんと一緒に給食を食べる会食会」を企画したり、毎日発行する給食通信「ぱくぱくもりもり」の中で担い手さん達のことを紹介したり、生産者と学校との交流をより積極的に進めている。
 さらに、杉木さんが赴任する学校で必ず行うのが、子供達自身で献立を立てるという授業だ。5年生時に一人ひとりが献立を立て、6年生時に実際の給食で出す。そこには、栄養バランスだけでなく、必ず「自分達が住んでいる地域で採れるもの」「旬のもの」を入れるという条件がある。
 「食」は生きていくための基本となるもの。学校給食を通じて、子供達が地域を知り、生産者の思いや願いを知る機会を作る。自分達が見ている田畑の風景と食べ物とのつながりを五感で理解できるように導く。豊かな心と感性、そして「生きる力」は、そうして育まれていくと杉木さんは考えている。


地域の食が子供を育てていく



タイトルなし

 杉木さんが学校給食と地域とのつながりの重要性を感じたのは、今から35年程前に栄養教諭となって初めて赴任した白馬南小学校(白馬村)での経験からだったという。
 「白馬村では、地域の人達がとても温かく、教員も地域の中で育てられていくという雰囲気がありました。地元の野菜をもらったり、地域のことを教えてもらったり。子供達も同じで、その土地のものを食べて育つのが当たり前。身近な人達がどのようにして作ったかを知って食べる。地域の中で、子供達がちゃんと人を信頼して育っているなと感じたんです」
 同時に、その感覚は、杉木さんの心にずっとあった「安全な食とは何か」という問いとも交差した。当時は、農薬や公害問題、食品添加物といったキーワードが盛んに取り沙汰され、社会問題にもなっていた時期。そうした問題を自身の職業に重ねたとき思い至ったのが「子供達に安全な食品で安全な給食を作ること」であり、「食を通じた教育」だったのだという。
 実際の生産現場のことを知り、人と人とのつながりを作ることで、地域の生産者との信頼関係も築ける。その信頼関係は、安全安心な学校給食を作る上で欠かせないことでもあった。
 「地産地消率の向上は、目的ではなく結果だと思うんです」と杉木さん。各地で地産地消率の向上をうたい、様々な取り組みが進められている。しかし、数字ばかり追い求めていては「地産地消の学校給食」が担う最も大切な役割を見失いかねないという。


地産地消を進める上で求められること



タイトルなし

 こうした取り組みも、学校と地域との連携をいかに実現するかが最大の課題だ。だからこそ、「栄養教諭はまず、地域のことを知る必要がある」という。反面、「栄養教諭が地域の様々な取り組みに参加していないことも多く、仲間外れのような状態も少なくない」と指摘する。
 「農業と同様に、栄養教諭にも後継者づくりが必要です。若い栄養教諭にこうした取り組みの価値に気付いてもらい、地域と一緒に活動していけるような仕組みづくりをしなければと思っています」
 地産地消と食育の関わりの重要性を理解するには、栄養教諭自ら農業の現場に入っていく機会を作ることが大切だ。しかし、生産者サイドからのアプローチも必要なことだ。地域が栄養教諭を受け入れ、情報を共有し、キーマンとして育成していくことが、地産地消の学校給食を継続していく、ひとつの重要な鍵となる。
 また、朝日小学校のような「自校給食」も、地産地消を進める上では大きなメリットだという。朝日小学校で作る給食数は、毎日約250食。担い手協議会と学校側とが相互に連絡を取り合い、前月の第1週頃に献立を立て、約2週間前に発注を行うという流れを作っている。顔を合わせた密な連絡調整によって、献立や食材の変更、規格についての折り合いもつけ易いため、小さな生産者団体でも対応できる。
 調理場の施設の造りも重要で、例えば、朝日小学校では、調理場に入る前に野菜の泥などを落とすための洗い場が付いている。衛生面を重視する学校給食では、規格や納入方法が必ずしも均一でない地元農産物を受け入れるための施設整備も求められる。


学校給食はただモノが流れる場ではない



タイトルなし

 「『食育』は地域の願いと自分の願いを重ねて、子供達に届ける仕事。学校給食は、ただものが流れる場ではなく、人と人のつながりがあって成り立つものです」
 杉木さんが語るそうした言葉からは、「食」が持つ大きな力を信じるからこその、力強さがあった。「地産地消の学校給食」は、未来を築く子供達と地域とが、有機的なつながりを築く場であるという。そのつながりは、いずれ地域を支える大事な基盤となるに違いない。

(平成28.4.19 産直コペルvol.17より)
産直コペルとは

全国の直売所や地域おこしの先進事例が盛りだくさん!「農と暮らしの新たな視点を探る」をテーマに、日本各地で地域おこしに奮闘する人々を取材した隔月発行の全国誌です。購読のお申し込みはこちら! 年間6冊3,300円(税・送料込み)です。

別冊産直コペル

手づくりラベルで農産物&加工品の魅力UP大作戦!
商品のラベルづくりにお悩みの農産物直売所、生産者、農産加工所の皆さま、必見の1冊!

バックナンバー

産直コペルのバックナンバーはこちら!

記事一覧